自身の歯を移植して咬み合わせを回復した症例
当院が実施した自身の歯を移植して咬み合わせを回復した症例
初診時の口腔内
初診時の口腔内です。診断・各種検査の結果、右下の奥歯に問題を発見しました。
右下奥歯は歯肉の退縮が著しく、歯根が露出し、さらに頬側の歯槽骨(歯を支える骨)も溶けている状態でした。保存不可能なため抜歯と診断し、抜歯後の咬み合わせの修復方法として以下の4つをご提案致しました。
- インプラント
- 入れ歯
- ブリッジ
- 自家歯牙移植(自分の不要な歯を移植)
※金額は全て同額です。
各治療法のメリット・デメリットを過去の症例と共に説明したところ、「自牙歯牙移植」での治療を希望されましたので、保存不可能と診断した右下奥歯(前から6番目)の歯を抜歯した後、右下の不必要な親知らず(前から8番目)を移植する旨を患者様にご説明致しました。
自牙歯牙移植は、全ての方に適用できる治療法ではありませんが、こちらの患者様は以下の条件を満たしていたため、第4の選択肢としてご提案を致しました。
- 移植ができる不要な歯(ドナー歯)があること
- 移植先と移植する歯のサイズに大きな差がないこと
- 移植する歯に歯根膜が存在していること(歯根膜は歯と骨を結びつけ、生着させる重要な組織のため)
- 移植先に移植歯を囲む十分な歯肉が存在すること
- 移植する歯の根が複雑な形状でないこと など
※条件が揃っていても骨量や歯茎の状態によって、成功率が低いと判断した際には出来ない場合もございます。
術前の精密検査とシミュレーション
リスクを抑え、的確な移植手術が行えるよう検査とシミュレーションを実施。
移植先の骨・周辺組織の検査
受け側の骨の形態はよくありませんが、受容側の骨の吸収による問題は、斜めに移植し、その後矯正することでクリアできます。※近くに大きな動脈(下顎管)があるため、慎重に処置を行います。
各種検査・シミュレーションの結果から、成功率を下げる要因・将来的なリスク(歯根吸収・歯周病・虫歯など)を患者様にお伝えし、移植手術の同意をいただきました。
手術の成功率を高めるための対策
▼ガイドを使用して骨の形状を整える
CT画像とスキャンデータによるサージカルガイドのシミュレーション結果を基に、移植する歯がスムーズに収まるよう、移植先の骨を正確に削るためのガイドを作製します。オペ当日には、移植前にガイドを使用して、不要な骨を削り、形状を整えます。
初期の結合組織性吻合の確率を上げるための工夫
初期の結合組織性吻合の確率の向上を図り、臨床的有意差はでていませんが、組織学的に再結合が普通の歯と同じ配列で治癒する可能性を高くするため、歯の大半は抜き、一部歯の破片を移植日まで保存しました。
移植手術の実施
手術より2週間後に根管治療を実施
移植手術の2週間後に、炎症性吸収という根の吸収による失敗が起こらないように無菌下で、精度の高い根管治療を行います。拡大視野での的確な処置を可能にするマイクロスコープをはじめ、根管内への細菌の侵入を防止するラバーダム、緊密な充填が可能なMTAセメントなど用いた「精密根管治療」を行い、再発率の軽減に努めています。詳しくは精密根管治療ページをご覧下さい。
移植に伴う炎症性吸収について
歯根膜が一部欠けた歯を移植した場合、歯髄に細菌感染があると、歯髄(歯根中心)と象牙質(歯根表面)を繋ぐ細い管(象牙細管)を通して、細菌が歯根表面へと流れ出ます。
流れ出た細菌が原因で歯根が吸収されることがあります。これを「炎症性吸収」といいます。炎症性吸収は移植後に起こりうる症状の一つですが、歯髄に感染が起こらないように、根管の処置を適切に行うこと(精密根管治療)で抑えることができます。
矯正治療による歯並びの調整
根管治療後、骨内に入れる為に斜めに設置し安定した移植歯を、理想的な位置に移動するために矯正治療を行います。矯正治療の詳細は、以下のページよりご確認下さい。
治療完了
矯正治療による歯並びの調整が終わった後は、移植した歯の形態を整え、治療完了となります。通常通り歯を削ってかぶせ物をいれる場合、象牙質露出により炎症性吸収を引き起こす可能性がある為、歯は削らず、歯科用の樹脂で歯の形態を整えました。
このように当院で行う移植は、診査・診断をしっかり行い、適切な治療計画の基、あらゆる工程で成功率をあげる工夫をしております。抜歯と診断され、移植をご検討中の方、インプラントや入れ歯治療以外の方法で歯の機能を回復したい方はぜひ、歯のクリニック東京までご相談下さい。
年齢・性別 | 66歳女性 |
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治療期間 | 3ヶ月 |
治療回数 | 10回 |
治療費 | 495,000円(税込) |
リスク | 移植した歯が生着しない場合がある 通常の歯と同様に歯周病、虫歯、歯根吸収の可能性がある |